不育症の治療法については、科学的根拠の信頼度の度合いに差がありますが、厚生労働科学研究班及び関係学会の指針を踏まえ、国内外の科学的根拠に基づいたリスク因子別の治療法が示されています。
不育症のリスク毎の治療
子宮形態異常 | 子宮形態異常に対する手術療法の有用性は、まだ明らかになっていません。 中隔子宮では手術を行った方が経過観察より妊娠成功率が高いことが判明しましたが、双角子宮では手術を行っても経過観察でも妊娠成功率は同じでした。 一方、中隔子宮、双角子宮でも手術を行わない経過観察で、診断後の最初の妊娠で59%が、最終的には78%が出産に至るという報告があります。 弓状子宮では手術療法の有効性を示すデータは示されていません。 いずれも症例数が少なかったため結論を出すに至っておらず、現時点では、双角子宮に対しての積極的な手術療法はメリットがない、中隔子宮についてはメリットがあるかもしれない、弓状子宮での手術療法についての有効性についても、明確なエビデンスはないので、積極的な手術療法は第一選択の治療法ではないとされています。 子宮の形態異常があっても、それが直接健康に影響を及ぼすことはなく、必ずしも治療が必要というわけではありません。 | |
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内分泌異常 | 甲状腺機能亢進・低下症では、内科専門医の診療を受け、機能が正常になってから妊娠をすることが重要です。妊娠後も引き続き治療が必要です。 糖尿病も、内科専門医の診断を受け、十分コントロールした上で、妊娠することが望まれます。妊娠前から妊娠経過中、産後にわたり、血糖の管理・治療が必要です。 | |
染色体異常 | 夫婦のどちらかに均衡型転座などの染色体異常が発見された場合は、十分な遺伝カウンセリングを行うことが必要です。 染色体異常の種類に応じ、染色体正常児を妊娠する確率や、着床前診断等のメリット、デメリット等を示した上で今後の治療方針を決める必要があります。 均衡型転座というタイプでは最終的に60~80%が出産に至ることが最近分かってきました。 なお現在のところ、着床前診断を行った方が自然妊娠より生児獲得率が高くなるというエビデンスはありません。 | |
抗リン脂質抗体症候群 | 抗リン脂質抗体症候群では、特に妊娠中は血栓症のリスクが高まります。 低用量アスピリンとへパリンの併用療法については、有効性を示す科学的根拠があります。 へパリン投与時にはへパリン起因性血小板減少症(HIT)が、まれに起こることがあるので投与開始2週間前後で血小板数を確認する必要があります。 妊娠中、十分なチェックを受ける必要があります。 偶発的抗リン脂質症候群陽性例(再検して陰性化した場合)や抗PE抗体陽性例、抗PS抗体(抗フォスファチジルセリン抗体)陽性例については、治療の必要性・有効性ともに、専門家の間でも、また結論が出ていません。 | |
プロテインS欠乏症・プロテインC欠乏症 | プロテインS欠乏症で、妊娠10週までの繰り返す初期流産の既往がある場合、低用量アスピリン療法を行った方がよいというデータが出ています。 また、妊娠10週以降の流・死産の既往がある場合、低用量アスピリン+へパリン療法が低用量アスピリン療法より有効であるとする報告があります。 プロテインS欠乏症・プロテインC欠乏症に対しては、これらの状況を踏まえ、治療の適応を検討します。 | |
第Ⅻ因子欠乏症 | 明確な治療方針は決まっていませんが、低用量アスピリン療法で良好な治療成績が得られているとのデータがあります。 | |
2回までの流産既往の場合 | 流産リスクが無い場合も有る場合も、臨床心理士もしくは産婦人科医によるカウンセリングを行った方がストレスが改善し、妊娠成功率が高いことが研究班の成績で明らかとなっています。 カウンセリングを受けることができなければ、十分な時間をとってリスク因子や今後の治療方針をていねいに説明してもらうとよいでしょう。 | |
ストレスが強く、うつの状態である場合 | ストレスが強い場合でも多くの場合、上記の方法(カウンセリングや時間をかけて説明)で改善するとの成績があります。 不十分であれば精神神経科医を受診し、認知行動療法等の精神神経科的治療をうけると有効である場合があります。 | |
リスク因子が不明である場合 | 多くの場合、胎児染色体異常を繰り返した偶発的な流産を繰り返した症例であるので、カウンセリングや十分な説明を受けるのみで、特別な治療を必要としません。しかし、一部の症例で難治性の原因不明流産が含まれています。これらの症例は今後の研究によりリスク因子や治療法が開発されていくものと思われます。 |
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精子提供で生まれたBさんからのメッセージ 私は30代になってから、自分が精子提供で生まれたことを聞かされました。両親は医師から、「精子提供を受ければ子どもを産むことができる。生まれた子どもに秘密にすれば問題はない」と言われ、事実を隠し続けてきました。しかし、親の病気により隠しておくことができなくなり、私に事実を告白しました。私はそれまで“自分”だと思っていたものが全て崩れ去り、アイデンティティクライシスに陥りました。また、これまで信頼していた両親が、自分にとって一番大切なことを隠していたという事実がショックで、両親を信じられなくなりました。どうしても子どもが欲しかった両親にすれば、精子提供によって子どもを持てたことは、幸福だったのだと思います。しかし、子どもにとって「自分がなにものなのか」という根幹を隠したまま、長く家族として暮らしていくことは、両親にとっても、不安やうしろめたさなど様々な葛藤があったはずだと思います。私は同じ立場の人たちの自助グループと出会い、押し込めていたいろいろな感情を分け合うことができるようになりました。一人で抱え込まずに悩みを話せる仲間がいたことやライフストーリーワークという方法にも出会い、今は少しずつ落ち着きをとりもどしてきています。子どもには、「どの人の遺伝子を受け継いだのか」を知る権利があります。それが保証されないということは、「自分自身の真ん中に大きな空洞が空いたまま生きていく」ということなのです。アレルギー、病歴、体質などについては命にかかわることだし、趣味嗜好、得意不得意なことは進学、就職など人生の大事な選択に影響します。なにを受け継いだのかわからないままでは、手探りで生きていかざるを得ないのです。精子提供で子どもを持つことを考えておられるのであれば、生まれてくる子どもに事実を隠すのではなく、できる限り早いうちから、「あなたはどのように生まれたのか」ということを誠実に伝えてほしいです。わかる限りの受け継いだ遺伝の情報を伝えていってほしいです。そして、血のつながりがなくても、親子として関係を作っていきたいのだということを、子どもの悩みや思いに寄り添いながら、子どもに伝え続けてほしいのです。現在、「非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ:DOG」や「無精子症と診断された夫婦が子どもを授かりたいと希望した時に様々な角度から相談しあえる自助グループ:すまいる親の会)などの自助グループがあります。悩んだ時、迷ったときはこのような自助グループなどに相談し、決して家族だけで抱え込まないようにしてほしいと思います。 AIDを選択する前に知っておいていただきたいこと ①「妊娠・子どもの誕生」は、人生のゴールではありません。家族の始まりであり、子どもの人生のスタートです 思いもかけない「不妊」という現実の中、「妊娠・子どもの誕生」が、おふたりの人生のゴールになっていませんか?「どうしても子どもが欲しい」と願うおふたりにとって、そう感じられることは仕方のないことかもしれません。しかし、妊娠・出産さえすれば、何もかもが上手くいき、人生がハピーエンドで終わるわけではありません。そこから子育てが始まりますし、生まれた子どもにとっては、まさしく人生がスタートします。子どもが幼児に成長し、小学生、中学生、やがて青年になって、大人になり、仕事を持ち、結婚をするかもしれないし、子どもを持つかもしれません。そしてやがて老いていきます。自分の一生を振り返った時、自身の誕生について「生まれてきてよかった」と思える人生であってほしいと、親であれば誰もが願うことでしょう。当然、おふたりもそう願っておられるはずです。親が提供による子どもの誕生を「隠すべきこと」として捉え秘密にすることは、子どもにとっては自分の存在そのものを否定することです。子どもを決して幸せにはしません。生まれてきた子どもの幸せ無くして、家族の幸せはありません。この医療を選択するかどうか、おふたりで何度も話し合いをされていることと思います。その上で、この医療を選択されるのであれば、もう一つ「生まれてきた子どもに正直に話をする」という選択をしていただきたいと思います。 ② AIDであることをオープンにする覚悟が必要です 精子提供で生まれたということを親から隠されて歳を重ね、ある日突然生まれの真実を知らされ、自分が何者なのかわからない」という苦しみの中で人生を歩んでいる人たちの怒りは、AIDという医療と、そのことを隠していた両親に向いています。昨今、DNA検査は簡単にできる時代です。隠していてもわかってしまう可能性は高く、また、家族の歴史に秘密があると、子どもは「この家には隠された秘密がある」と疑って成長する場合が多いのです。思春期以降に事実を知った子どもたちのほとんどが、大きなショックを受け、親子関係が破綻している場合も少なくありません。この医療を選択するのならば、子どもの命の誕生に「提供者」という存在がかかわったのだということを、子どもが乳幼児の頃からオープンにしていく覚悟が必要です。 ③ 生まれてきた子どもにどう伝えるか 親が提供による子どもの誕生を「良いこと」として捉え、誇りを持って、「あなたの誕生の物語」について、正直な態度で、話をしていくことが必要です。できれば子ども自身の心の負担の無い、赤ちゃんの頃から話をしてあげてください。「赤ちゃんでは理解できないのでは?」と思われるかもしれませんが、それでもいいのです。折に触れて日常のなかで少しずつ、繰り返し親自身が話すことによって、オープンな姿勢が子どもに伝わります。親にとっては、それから先の告知の練習にもなります。いざというときにうろたえずに済むのです。正直に話をしていきながら、子育てをしていくことにより、安定した親子関係の土台を築いていくことができるでしょう。AIDで生まれた人の家族をテーマにした絵本も出版されていています。このような絵本を活用しながら、「愛している」「私の子どもに生まれてくれてありがとう」と繰り返し伝えて欲しいと思います。 ※「ゆみちゃんのものがたり」文・編集・発行/才村眞理 ※「わたしのものがたりMy Story」文/北原由美子・すまいる親の会 編集・発行/清水きよみ ④ 子どもの出自を知る権利 日本も批准する「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」では、「子どもはだれでも、自身の遺伝的親を知る権利を持っている」とされています。もし、知ることができない場合は国が保障すべきだとしています。これが「子どもの出自を知る権利」です。この権利を保障するには、提供精子を利用して生まれた子どもが、自身の遺伝的親ともいえる提供者を知りたい場合に、知ることができる仕組みが必要です。残念ながら、日本の生殖医療の法律では現在(2023年6月)のところ、その権利は記載されていません。医療機関の中には、提供者を知る仕組みを独自に作り、医療を提供しているところもありますが、まだまだ少ないのが現状です。この仕組みが無いがゆえに、親自身も医療機関も、提供者が誰かわからない場合も少なくありません。そんな中2022年12月には、日本国内の精子提供や卵子提供で生まれた人と過去に精子や卵子を提供した人を結び付けることを通して、自己の遺伝情報を知る権利の重要性を啓発し、提供型生殖補助医療の抱える課題の解決を目指す「一般社団法人ドナーリンク・ジャパン」という法人が設立されました。我が国においても「出自を知る権利」を保証するよう求める声が上がってきています。繰り返しになりますが、親自身も医療機関も提供者が誰かわからない場合でも、生まれた子どもに幼少期から正直に、提供で生まれたことを話し続けることは、必要不可欠です。 「親になりたい」を叶えるもう一つの選択肢「里親制度と養子縁組」―あなたらしい家族を見つけませんか ① 不妊治療の先の選択肢 世界保健機関(WHO)は、世界全体で成人の約6人に1人が不妊を経験していると発表しました(2023年4月)。不妊治療をしたにもかかわらず実子を得ることができなかったご夫婦は、子どもを産んで「親になる」という青写真が否定される現実に直面します。近年の治療技術の急速な発達と治療方法の拡大は、治療に通えば子供が授かるといった思い込みを、不妊当事者を含む社会一般に植え付けている面があります(安田・山田,2008)。不妊治療をしてなかなか子どもが授からなくても治療のやめ時を決められず、年齢を重ねていくご夫婦は決して少なくありません。社会に根深くある血縁主義の家族観の中で不妊治療以外に家族を作る選択肢があることに目を向けることができなくなっているのかもしれません。 ② 里親制度や養子縁組で子どもを育てる「親になる」 日本ではこれまで、実親の元で暮らすことができない「社会的養護」が必要な子どもの多くは、乳児院や児童養護施設での施設養護で暮らしていました。しかし家庭環境の中で特定の養育者に育てられることが、子どもの心身の健康な育ちに有益であることが認められてきました。里親制度は児童福祉法で規定された制度で、いろいろな事情で実親の元で育つことができない子どもをある一定期間家庭で養育する制度です。養子制度は民法により実親が育てられない子どもを縁組することによって法律上でも親子となる制度です。「新しい社会的養育ビジョン」(2017)では、乳幼児には原則家庭養育を徹底することや里親委託の推進など、子どもたちが家庭養育で育つことができるようより一層力を入れるよう示しました。里親や養親になったご夫婦の多くは、子どもを育てることの意味、今後の家族のあり方を真剣に話し合った上で意識的に「親になる」ことを選択した夫婦といえます。不妊治療、里親制度、養子縁組など多様な選択肢から夫婦にとって望ましい家族の形を選び、幸せな家庭を作っていくことが大事なのではないでしょうか。 【文:精子・卵子の提供により生まれた人のためのライフストーリーワーク研究会】 「精子・卵子の提供により生まれた人のためのライフストーリーワーク研究会」とは提供精子により生まれた人と研究者からなるグループで、提供精子・卵子により生まれた人へのサポートの手段として、社会的養護の分野で広がっているライフストーリーワークを応用する方法を検討しています。ライフストーリーワークは、サポーターとともに、これまでの人生を振り返り、整理するソーシャルワークの技法です。提供精子・卵子により生まれた方の置かれている状況やライフストーリーワークについての講座を実施しています。詳細は、研究会HPをご参照ください。
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カラダと性の相談からだの基礎知識
女性のからだ 女性の月経と排卵が起こるサイクルには、さまざまな性ホルモンが関与しています。ホルモンは外界と通じていない血液の中に分泌されることから「内分泌」といいます。月経と排卵はこの内分泌のしくみによって起こります。性ホルモンを分泌する司令塔は、脳の中にある「視床下部」と「下垂体」で、連携しながらホルモンの流れを司っています。月経の頃に下垂体から分泌されるホルモンが卵巣を刺激することで、約2週間かけて排卵へと向かっていきます。 ■ 女性のからだについて詳しくはコチラ>> 男性のからだ 陰茎の下にある陰嚢の中には、精子をつくる「精巣」があります。「睾丸」ともいいますが、女性の「卵巣」に対応する名称として、最近は精巣と呼ぶことが多くなっています。精巣の中には「精細管」という細い管があり、精子はこの中でつくられます。精細管の中には、胎児のときから、精子のもとになる精祖細胞があり、思春期になると、精祖細胞から精母細胞がつくられ、さらに精母細胞は精子細胞となります。この精子細胞が成熟して、頭と尾のある精子となります。精子の発生には、性ホルモンが大きく関わっています。性ホルモンの流れをつかさどっているのは、女性と同様、脳の視床下部と下垂体です。まず、視床下部からゴナドトロピン放出ホルモン(性腺刺激ホルモン放出ホルモン:GnRH)が分泌されて下垂体を刺激し、黄体化ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)を分泌するよう指令を出します。黄体化ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)は、精巣内にある2種類の細胞を別々に刺激します。黄体化ホルモン(LH)による刺激を受けて、精巣では男性ホルモン(テストステロン)がつくられます。また、卵胞刺激ホルモン(FSH)は、男性ホルモン(テストステロン)とともに、精子の発生を促します。 ■ 男性のからだについて詳しくはコチラ>> 性分化の過程 ~男あるいは女に発育していく過程~ 男女の性は、受精によって決定するわけではありません。受精によってつくられた「胎児原基」は、どちらの性にも発育できる特徴を持っています。男女の性が決定するには、性染色体の遺伝子に始まり、思春期あるいは青年期まで続く性分化の過程があります。これらすべてが、女性なら女性、男性なら男性と一致して初めて、男女が決定されます。 ■ 性分化の過程について詳しくはコチラ>>
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