不育症のリスク因子

不育症のリスク因子

2023.06.02

不育症のリスク因子

妊娠初期の流産の原因で最も頻度の高いものは胎児の染色体異常で、約80%に存在します。したがって3回流産したことのある人で、胎児染色体異常がたまたま3回繰り返す場合も、51%を占めるとされています。つまり、胎児染色体異常以外の要因は約半数となります。 不育症のリスク因子には、夫婦の染色体異常に加えて、女性側の原因として、子宮形態異常、内分泌異常、凝固異常、母体の高齢年齢などがあります。主なものの内容は以下のとおりです。
※リスク因子がある場合でも、100%流産するわけではないので、「原因」ではなく「リスク因子」と表現しています。 

夫婦染色体異常妊娠初期の流産の大部分(約80%)は胎児に偶発的に発生した染色体異常ですが、流産を繰り返す場合は、夫婦どちらかに均衡型転座などの染色体構造異常がある可能性が高くなります。
その場合、夫婦とも全く健康ですが、卵や精子ができる際、染色体に過不足が生じることがあり、流産の原因となります。
子宮形態異常子宮の形によっては、着床の障害となったり、胎児や胎盤を圧迫して、流・早産を繰り返すことがあると考えられています。 

●子宮形態異常の種類
不育症の原因となる可能性が指摘されている子宮形態異常には、生まれつき子宮の形に異常がある先天的なものと、子宮筋腫(粘膜下筋腫)や子宮腔癒着症など後天的なものがあります。このうち、不育症との因果関係がはっきりしているのは先天的な子宮形態異常です。子宮形態異常にはいろいろなタイプがありますが、中隔子宮、双角子宮、弓状子宮などがあり、特に不育症と関連が深いのが中隔子宮といわれています。

図:子宮形態異常

※出典:反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアル
内分泌異常甲状腺機能亢進・低下症、糖尿病などでは流産のリスクが高くなります。
甲状腺自己抗体の影響などや、高血糖による胎児染色体異常の増加の関与が指摘されています。
なお、これらの内分泌疾患では、早産等の産科合併症のリスクも高いため、妊娠前から妊娠中にかけて、良好な状態を維持することが重要です。
凝固異常抗リン脂質抗体症候群、プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、第Ⅶ因子欠乏症などの一部では、血栓症などにより、流産・死産をくり返すことがあります。また流産・死産とならなくても、胎児の発育異常や胎盤の異常を来すことがあります。

●抗リン脂質抗体症候群
抗リン脂質抗体は、膠原病等の病気の際や、不育症例の一部に認められる抗体で、この抗体ができることにより、全身の血液が固まりやすくなり、動脈や静脈に血栓、塞栓症を引き起こすことがあります。特に血液の流れの遅い胎盤のまわりには血栓が生じやすく、胎盤梗塞により流産や死産が起こるとされています。最近の研究では抗リン脂質抗体は胎盤のまわりに炎症を引き起こし、その結果、流産になることも分かってきました。抗リン脂質抗体陽性の妊婦さんに血栓予防のためへパリンを使用することがありますが、へパリンには胎盤周辺の血栓をできにくくする作用と、炎症を抑える作用があることが分かってきています。

●プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症
これらは、血液を固める(凝固させる)活性化Va因子、活性化VⅢa因子を不活性化させる作用があり、血液凝固を防いでいます。プロテインSやプロテインCが減少すると血液凝固が起こりやすくなり、血栓、塞栓ができやすくなります。妊娠中は、プロテインS量が低下しやすいため、血栓症のリスクが高くなります。プロテインS欠乏症は白人では0.03~0.13%と低率ですが、日本人では1.6%と高率で、日本人に多いのが特徴です。厚生労働科学研究班では、不育症患者ではプロテインS欠乏症が7.4%と日本人の平均より高率でした。

●第Ⅻ因子欠乏症
第Ⅻ因子は、血液凝固因子の一つで、欠乏すると血栓や流産を引き起こしやすいといわれています。しかし、第Ⅻ因子を完全に欠損する場合でも、流産しないことがあり、第Ⅻ因子欠乏症と流産の関係については、不明な点も多いのが現状です。

不育症のリスク因子の頻度

子宮形態異常が7.8%、甲状腺の異常が6.8%、夫婦いずれかの染色体異常が4.6%、抗リン脂質抗体症候群が10.2%、凝固因子異常として第Ⅶ因子欠乏症が7.2%、プロテインS欠乏症が7.4%、プロテインC欠乏症が0.2%あります。 検査をしても明らかな異常がわからない偶発的流産・リスク因子不明が65.3%存在します。 また、全体の22.6%で、抗PE抗体陽性でした。現在のところ、抗PE抗体の病原性については、専門家の中でも意見が一致していないため「偶発的流産・リスク因子不明」に含めています。抗PE抗体陽性者を除いても約40%は偶発的流産・リスク因子不明です。 

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