不育症のリスク因子
妊娠初期の流産の原因で最も頻度の高いものは胎児の染色体異常で、約80%に存在します。したがって3回流産したことのある人で、胎児染色体異常がたまたま3回繰り返す場合も、51%を占めるとされています。つまり、胎児染色体異常以外の要因は約半数となります。 不育症のリスク因子には、夫婦の染色体異常に加えて、女性側の原因として、子宮形態異常、内分泌異常、凝固異常、母体の高齢年齢などがあります。主なものの内容は以下のとおりです。
※リスク因子がある場合でも、100%流産するわけではないので、「原因」ではなく「リスク因子」と表現しています。
夫婦染色体異常 | 妊娠初期の流産の大部分(約80%)は胎児に偶発的に発生した染色体異常ですが、流産を繰り返す場合は、夫婦どちらかに均衡型転座などの染色体構造異常がある可能性が高くなります。 その場合、夫婦とも全く健康ですが、卵や精子ができる際、染色体に過不足が生じることがあり、流産の原因となります。 | |
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子宮形態異常 | 子宮の形によっては、着床の障害となったり、胎児や胎盤を圧迫して、流・早産を繰り返すことがあると考えられています。 ●子宮形態異常の種類 不育症の原因となる可能性が指摘されている子宮形態異常には、生まれつき子宮の形に異常がある先天的なものと、子宮筋腫(粘膜下筋腫)や子宮腔癒着症など後天的なものがあります。このうち、不育症との因果関係がはっきりしているのは先天的な子宮形態異常です。子宮形態異常にはいろいろなタイプがありますが、中隔子宮、双角子宮、弓状子宮などがあり、特に不育症と関連が深いのが中隔子宮といわれています。 図:子宮形態異常 ※出典:反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアル | |
内分泌異常 | 甲状腺機能亢進・低下症、糖尿病などでは流産のリスクが高くなります。 甲状腺自己抗体の影響などや、高血糖による胎児染色体異常の増加の関与が指摘されています。 なお、これらの内分泌疾患では、早産等の産科合併症のリスクも高いため、妊娠前から妊娠中にかけて、良好な状態を維持することが重要です。 | |
凝固異常 | 抗リン脂質抗体症候群、プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、第Ⅶ因子欠乏症などの一部では、血栓症などにより、流産・死産をくり返すことがあります。また流産・死産とならなくても、胎児の発育異常や胎盤の異常を来すことがあります。 ●抗リン脂質抗体症候群 抗リン脂質抗体は、膠原病等の病気の際や、不育症例の一部に認められる抗体で、この抗体ができることにより、全身の血液が固まりやすくなり、動脈や静脈に血栓、塞栓症を引き起こすことがあります。特に血液の流れの遅い胎盤のまわりには血栓が生じやすく、胎盤梗塞により流産や死産が起こるとされています。最近の研究では抗リン脂質抗体は胎盤のまわりに炎症を引き起こし、その結果、流産になることも分かってきました。抗リン脂質抗体陽性の妊婦さんに血栓予防のためへパリンを使用することがありますが、へパリンには胎盤周辺の血栓をできにくくする作用と、炎症を抑える作用があることが分かってきています。 ●プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症 これらは、血液を固める(凝固させる)活性化Va因子、活性化VⅢa因子を不活性化させる作用があり、血液凝固を防いでいます。プロテインSやプロテインCが減少すると血液凝固が起こりやすくなり、血栓、塞栓ができやすくなります。妊娠中は、プロテインS量が低下しやすいため、血栓症のリスクが高くなります。プロテインS欠乏症は白人では0.03~0.13%と低率ですが、日本人では1.6%と高率で、日本人に多いのが特徴です。厚生労働科学研究班では、不育症患者ではプロテインS欠乏症が7.4%と日本人の平均より高率でした。 ●第Ⅻ因子欠乏症 第Ⅻ因子は、血液凝固因子の一つで、欠乏すると血栓や流産を引き起こしやすいといわれています。しかし、第Ⅻ因子を完全に欠損する場合でも、流産しないことがあり、第Ⅻ因子欠乏症と流産の関係については、不明な点も多いのが現状です。 |
不育症のリスク因子の頻度
子宮形態異常が7.8%、甲状腺の異常が6.8%、夫婦いずれかの染色体異常が4.6%、抗リン脂質抗体症候群が10.2%、凝固因子異常として第Ⅶ因子欠乏症が7.2%、プロテインS欠乏症が7.4%、プロテインC欠乏症が0.2%あります。 検査をしても明らかな異常がわからない偶発的流産・リスク因子不明が65.3%存在します。 また、全体の22.6%で、抗PE抗体陽性でした。現在のところ、抗PE抗体の病原性については、専門家の中でも意見が一致していないため「偶発的流産・リスク因子不明」に含めています。抗PE抗体陽性者を除いても約40%は偶発的流産・リスク因子不明です。
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AIDを選択する前に知っておいていただきたいこと ①「妊娠・子どもの誕生」は、人生のゴールではありません。家族の始まりであり、子どもの人生のスタートです 思いもかけない「不妊」という現実の中、「妊娠・子どもの誕生」が、おふたりの人生のゴールになっていませんか?「どうしても子どもが欲しい」と願うおふたりにとって、そう感じられることは仕方のないことかもしれません。しかし、妊娠・出産さえすれば、何もかもが上手くいき、人生がハピーエンドで終わるわけではありません。そこから子育てが始まりますし、生まれた子どもにとっては、まさしく人生がスタートします。子どもが幼児に成長し、小学生、中学生、やがて青年になって、大人になり、仕事を持ち、結婚をするかもしれないし、子どもを持つかもしれません。そしてやがて老いていきます。自分の一生を振り返った時、自身の誕生について「生まれてきてよかった」と思える人生であってほしいと、親であれば誰もが願うことでしょう。当然、おふたりもそう願っておられるはずです。親が提供による子どもの誕生を「隠すべきこと」として捉え秘密にすることは、子どもにとっては自分の存在そのものを否定することです。子どもを決して幸せにはしません。生まれてきた子どもの幸せ無くして、家族の幸せはありません。この医療を選択するかどうか、おふたりで何度も話し合いをされていることと思います。その上で、この医療を選択されるのであれば、もう一つ「生まれてきた子どもに正直に話をする」という選択をしていただきたいと思います。 ② AIDであることをオープンにする覚悟が必要です 精子提供で生まれたということを親から隠されて歳を重ね、ある日突然生まれの真実を知らされ、自分が何者なのかわからない」という苦しみの中で人生を歩んでいる人たちの怒りは、AIDという医療と、そのことを隠していた両親に向いています。昨今、DNA検査は簡単にできる時代です。隠していてもわかってしまう可能性は高く、また、家族の歴史に秘密があると、子どもは「この家には隠された秘密がある」と疑って成長する場合が多いのです。思春期以降に事実を知った子どもたちのほとんどが、大きなショックを受け、親子関係が破綻している場合も少なくありません。この医療を選択するのならば、子どもの命の誕生に「提供者」という存在がかかわったのだということを、子どもが乳幼児の頃からオープンにしていく覚悟が必要です。 ③ 生まれてきた子どもにどう伝えるか 親が提供による子どもの誕生を「良いこと」として捉え、誇りを持って、「あなたの誕生の物語」について、正直な態度で、話をしていくことが必要です。できれば子ども自身の心の負担の無い、赤ちゃんの頃から話をしてあげてください。「赤ちゃんでは理解できないのでは?」と思われるかもしれませんが、それでもいいのです。折に触れて日常のなかで少しずつ、繰り返し親自身が話すことによって、オープンな姿勢が子どもに伝わります。親にとっては、それから先の告知の練習にもなります。いざというときにうろたえずに済むのです。正直に話をしていきながら、子育てをしていくことにより、安定した親子関係の土台を築いていくことができるでしょう。AIDで生まれた人の家族をテーマにした絵本も出版されていています。このような絵本を活用しながら、「愛している」「私の子どもに生まれてくれてありがとう」と繰り返し伝えて欲しいと思います。 ※「ゆみちゃんのものがたり」文・編集・発行/才村眞理 ※「わたしのものがたりMy Story」文/北原由美子・すまいる親の会 編集・発行/清水きよみ ④ 子どもの出自を知る権利 日本も批准する「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」では、「子どもはだれでも、自身の遺伝的親を知る権利を持っている」とされています。もし、知ることができない場合は国が保障すべきだとしています。これが「子どもの出自を知る権利」です。この権利を保障するには、提供精子を利用して生まれた子どもが、自身の遺伝的親ともいえる提供者を知りたい場合に、知ることができる仕組みが必要です。残念ながら、日本の生殖医療の法律では現在(2023年6月)のところ、その権利は記載されていません。医療機関の中には、提供者を知る仕組みを独自に作り、医療を提供しているところもありますが、まだまだ少ないのが現状です。この仕組みが無いがゆえに、親自身も医療機関も、提供者が誰かわからない場合も少なくありません。そんな中2022年12月には、日本国内の精子提供や卵子提供で生まれた人と過去に精子や卵子を提供した人を結び付けることを通して、自己の遺伝情報を知る権利の重要性を啓発し、提供型生殖補助医療の抱える課題の解決を目指す「一般社団法人ドナーリンク・ジャパン」という法人が設立されました。我が国においても「出自を知る権利」を保証するよう求める声が上がってきています。繰り返しになりますが、親自身も医療機関も提供者が誰かわからない場合でも、生まれた子どもに幼少期から正直に、提供で生まれたことを話し続けることは、必要不可欠です。 「親になりたい」を叶えるもう一つの選択肢「里親制度と養子縁組」―あなたらしい家族を見つけませんか ① 不妊治療の先の選択肢 世界保健機関(WHO)は、世界全体で成人の約6人に1人が不妊を経験していると発表しました(2023年4月)。不妊治療をしたにもかかわらず実子を得ることができなかったご夫婦は、子どもを産んで「親になる」という青写真が否定される現実に直面します。近年の治療技術の急速な発達と治療方法の拡大は、治療に通えば子供が授かるといった思い込みを、不妊当事者を含む社会一般に植え付けている面があります(安田・山田,2008)。不妊治療をしてなかなか子どもが授からなくても治療のやめ時を決められず、年齢を重ねていくご夫婦は決して少なくありません。社会に根深くある血縁主義の家族観の中で不妊治療以外に家族を作る選択肢があることに目を向けることができなくなっているのかもしれません。 ② 里親制度や養子縁組で子どもを育てる「親になる」 日本ではこれまで、実親の元で暮らすことができない「社会的養護」が必要な子どもの多くは、乳児院や児童養護施設での施設養護で暮らしていました。しかし家庭環境の中で特定の養育者に育てられることが、子どもの心身の健康な育ちに有益であることが認められてきました。里親制度は児童福祉法で規定された制度で、いろいろな事情で実親の元で育つことができない子どもをある一定期間家庭で養育する制度です。養子制度は民法により実親が育てられない子どもを縁組することによって法律上でも親子となる制度です。「新しい社会的養育ビジョン」(2017)では、乳幼児には原則家庭養育を徹底することや里親委託の推進など、子どもたちが家庭養育で育つことができるようより一層力を入れるよう示しました。里親や養親になったご夫婦の多くは、子どもを育てることの意味、今後の家族のあり方を真剣に話し合った上で意識的に「親になる」ことを選択した夫婦といえます。不妊治療、里親制度、養子縁組など多様な選択肢から夫婦にとって望ましい家族の形を選び、幸せな家庭を作っていくことが大事なのではないでしょうか。 【文:精子・卵子の提供により生まれた人のためのライフストーリーワーク研究会】 「精子・卵子の提供により生まれた人のためのライフストーリーワーク研究会」とは提供精子により生まれた人と研究者からなるグループで、提供精子・卵子により生まれた人へのサポートの手段として、社会的養護の分野で広がっているライフストーリーワークを応用する方法を検討しています。ライフストーリーワークは、サポーターとともに、これまでの人生を振り返り、整理するソーシャルワークの技法です。提供精子・卵子により生まれた方の置かれている状況やライフストーリーワークについての講座を実施しています。詳細は、研究会HPをご参照ください。
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