妊娠をさまたげる要因とその予防

妊娠をさまたげる要因とその予防

2023.06.02

不妊の原因はさまざまですが、日常生活等に問題があり、妊娠を遠ざけてしまっているケースも見られます。 日常生活における小さな配慮を積み重ね、心身の健康を維持・増進するよう努めることで、将来不妊になるリスクが確実に減ります。不妊を予防するような生活習慣を身につけることは、不妊症の治療とあわせて重要です。 

加齢と不妊

晩婚・晩産化が進み、加齢による不妊が増えています。個人差はありますが、女性は30歳を超えると自然に妊娠する確率が徐々に低下し、35歳くらいから急速に低下します。その一方で子宮筋腫、子宮内膜症、子宮がん、乳がんなどの婦人科疾患にかかるリスクが高まり、妊娠をさまたげる要因は増えていきます。45歳を過ぎると体外受精や顕微授精を行っても妊娠する可能性は限りなく低くなります。また、妊娠したとしても35歳以上の高齢妊娠・出産では流産・死産、ダウン症などの胎児異常の確率が高くなるとともに、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、前置胎盤、陣痛異常、帝王切開率の増加など産科的リスクも高まります。

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食生活と不妊

無理なダイエットをきっかけに、神経性食欲不振症(いわゆる拒食症)などの摂食障害となり、体重減少性無月経に陥るケースがあります。極端なやせ願望やボディイメージのゆがみから、無理なダイエットを行う女性が少なくありません。このようなダイエットが、女性の体、とくに生殖機能に与えるダメージは非常に大きいものがあります。

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喫煙・アルコール・薬物と不妊

喫煙やアルコールの過剰摂取、薬物の乱用等も、不妊を引き起こす可能性を秘めています。

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性感染症(STD)と不妊

性交を通じて感染する感染症(STD)は、増加の一途をたどっており、また感染の兆候があってもほとんど気づかれない程度ですので、感染が拡大しやすく、不妊の主要な原因の1つです。近年は初交年齢の低下にともなって10代女性の感染率が大きく上昇しており、将来の不妊につながることが憂慮されています。
特に急増している「クラミジア感染症」は、炎症が卵管や子宮内膜、骨盤腹膜などに及んでいれば、卵管閉塞や骨盤内に癒着を招くことがあります。女性の場合は症状が乏しく、無自覚のうちに拡大して不妊の原因となります。男性は約半数に排尿痛などの自覚症状が起こります。精巣周辺に炎症が広がれば陰嚢が腫れて不妊の原因となります。また、淋菌によって起こる「淋菌感染症」は、精巣上体炎や子宮頸管炎などを引き起こし、これも男女双方にとって不妊の原因となります。感染時に、男性の約半数は排尿時の違和感や尿道からの黄白色の分泌物などの症状が見られますが、女性の多くは無症状のため、治療の機会を逃してしまいがちです。誰でも無防備な性交を行えば、妊娠するかもしれないことを知っています。しかし、性感染症(STD)に感染するリスクが高く、そのために、将来妊娠しなくなるかもしれないということを知りません。治療によって、感染症は治癒したとしても、すでに傷んでしまった卵管などは治りません。
感染の予防には、コンドームの着用が有効です。また、パートナーも同時に治療し、再感染を防ぐことが重要です。

月経異常と不妊

月経は女性特有の生理現象ですが、月経周期、月経持続日数、月経血量、月経困難の症状などに留意する必要があります。基礎体温を測定して排卵の有無を確認し、月経周期に伴う身体的な変化をメモしておくと、将来、妊娠を考える際の有用な資料になります。
月経血に凝血が混入する場合や、日常生活に支障をきたすほどの重い月経痛がある場合などは、子宮筋腫、子宮内膜症などの婦人科疾患が疑われます。迷わずに産婦人科医の診察を受けましょう。これらの疾患は不妊をまねきやすいものの、早期に発見して治療すれば、その分リスクは低くなります。
また、生活環境の変化などにより、月経周期が不規則となったり無月経になったりすることは珍しくありませんが、異常が続く場合は放置せずに受診しましょう。3ヶ月以上放置していると回復がしにくくなり、将来の不妊の原因となる可能性が高まります。

卵子・精子の保存

悪性腫瘍の治療により、放射線治療・化学療法を行うことで、精巣・卵巣が高度に障害され、多くの患者が治療後に妊孕性を失います。一方でこのような治療の場合、原疾患の治癒率が高まれば高まるほど、将来子どもをもつ可能性を残したいという願いが強く聞かれるようになってきています。
女性の妊孕性温存法には「受精卵の凍結」「卵子凍結」などがあります。患者の原疾患、パートナーの有無などによって、最適な方法は異なり、臨床実績・安全性にも差があります。男性の妊孕性温存法としては「精子の凍結保存法」が一般的です。精子凍結保存は50年以上の臨床実績があり、この方法の安全性は確立しているといえます。

ストレスへの対処

精神的なストレスにより自律神経のバランスが崩れると、ホルモンの分泌が低下します。自律神経と性ホルモンの中枢はともに視床下部にあることから、互いに影響を受けやすいためです。視床下部からのゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌に異常が起こると、女性の場合は排卵が抑制され、男子の場合は造精機能が低下するとの報告があります。
不妊に悩むカップルは、周囲からの心ない言葉や、子どもができないことへの焦りなどからストレスをためがちです。また、不妊治療そのものがストレスになるなど、慢性的なストレス環境におかれているといえます。
適度に体を動かし、バランスのとれた食事、十分な休養をとるとともに、生活を楽しむ気持ちを大切にし、趣味を楽しんだりして、心身をリラックスさせるよう工夫しましょう。しばらく治療を休んでみることも1つの方法です。また、気持ちを外部に開放するために、不妊カウンセリングやサポート・グループを活用するのも有効です。

セックスレスへの対応

セックスレスとは、病気や単身赴任などの特殊事情を除き、1ヶ月以上にわたって性交渉がなく、その後も同様の事態が続くと予想される場合をいい、不妊の原因の1つと捉えられます。

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社会的な予防対策

晩婚・晩産化という現象は、女性が働き続けることと、結婚して子どもを産み育てることとの両立が困難であるがゆえに、やむを得ず時期が遅れている傾向もあります。子どもを産みたくても産めない労働環境が原因で、結果的に加齢がもとでの不妊になってしまうような社会環境は改善していかなければなりません。

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【引用・参考文献】
*久保春海他(2006):不妊相談のためのマニュアル.不妊に対する理解と支援のための普及事業 事業委員会*NPO法人日本不妊予防研究会編(2008):不妊予防のためのマニュアル.母子保健事業団*日本生殖医学会(2013):不妊症Q&A

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