column 不妊・不育の相談一覧
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#不妊・不育の相談喫煙・アルコール・薬物と不妊
喫煙と不妊 喫煙は、男性の造精機能に影響を及ぼすなどの影響が指摘されるようになってきています。また、喫煙は性機能の低下に密接に関連しており、勃起不全(ED)を発症リスクが高くなるという報告があります。1日あたりの喫煙量が多い人ほど勃起機能の低下に関連しているとの報告もあります。女性の場合、喫煙は卵巣の老化を促進させることにつながり、閉経が早いことが指摘されています。喫煙によって卵巣機能が低下することもわかっており、喫煙量に比例して妊孕性が低下すると報告されています。また、喫煙は妊孕性を低下させるだけでなく、その後の胎児の健康にも悪影響を及ぼすことが明らかになっています。例えば喫煙習慣のある女性は流早産を招きやすく、また低出生体重児の出生率が高いことが知られています。「受動喫煙」も煙草を吸う本人の「能動喫煙」と同様の影響を及ぼすことが明らかになっています。妊娠を希望する場合は、周囲も含めた禁煙が重要です。また、不妊以外にも、喫煙と深く関係している病気は少なくないことからも、早めに禁煙することが望ましいでしょう。 アルコールと不妊 アルコールは、適度な量であれば個人の生活の質を高め満足感をもたらしますが、多量の飲酒や飲酒習慣が続くと、心身に大きな影響をもたらします。アルコールには中枢神経を抑制する作用があり、この中枢神経抑制作用が性機能不全に影響するといわれています。男性の場合、過度の飲酒は、男性ホルモン(テストステロン)の働きを低下させ、精子数の減少、精巣の萎縮、勃起不全などに陥る可能性が示唆されています。女性の場合、ホルモン分泌の変化に関する検討は少なく、不妊との関係を論じるのはいまだ十分ではないようですが、排卵障害などの卵巣機能不全をもたらすとの指摘もあります。なお、妊娠初期の女性が気づかないまま飲酒すると、胎児の発育障害や器官形成不全などを引き起こすことがあり、これを胎児性アルコール症候群(Fetal alcohol syndrome:FAS)といいます。妊娠中はアルコールを摂取しないようにしましょう。 薬物と不妊 現在、臨床では膨大な薬剤が使用されており、それらは適用、用法・用量、禁忌などが決められています。副作用に関しては中枢神経系、心・血管系、消化器系などについて比較的詳細に報告されていますが、男女の性腺系への影響についてはほとんど記載されていません。しかし、薬物の乱用も、不妊を引き起こすことがあります。睡眠薬や精神安定剤などのうち、脳の中枢に働き掛けるものは、卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体化ホルモン(LH)の分泌を低下させたり、乳汁分泌ホルモン(プロラクチン:PRL)の分泌を亢進させたりする場合があり、月経異常の原因となることがあります。薬剤の使用に際しては、疾病の重症度や予後を考えながらも、ややもすると無視されがちな生殖機能の保全に、十分配慮していくことが大切です。
2023.06.01 -
#不妊・不育の相談セックスレスへの対応
セックスレスとは、病気や単身赴任などの特殊事情を除き、1ヶ月以上にわたって性交渉がなく、その後も同様の事態が続くと予想される場合をいい、不妊の原因の1つと捉えられます。 男性の性機能障害 男性の性機能障害には「勃起障害(ED)」「射精障害」があります。勃起障害のうち、動脈硬化や高血圧による血流障害といった身体的要因の場合は、原因である病気を治療することが先決です。過去の性交の失敗や仕事上のストレスなど心因性の場合も、薬物療法でかなりの改善が見られますが、副作用のリスクがあるため、医師に相談してみましょう。射精障害のうち最も多いのは膣内射精障害です。これはマスターベーションの刺激が強すぎることが主な原因です。膣内射精障害にならない適切な方法を身につける必要があります。 女性の性機能障害 女性の性機能障害では、「膣痙攣」(ワギニスムス)が圧倒的に多く、潜在的患者が多いと考えられています。大きく「性的欲求の障害」「性的興奮の障害」「性交疼痛障害」に分けられます。女性性機能障害の根底には、性に対する否定的な教育や経験からくる嫌悪感、パートナーとのトラブルや性に関するトラウマなどにより、性を拒む心理が存在していると考えられています。性欲低下や性嫌悪などの心因性の場合は、カップルで性生活を工夫するだけでは解決できない場合が少なくありません。うつ病などの精神疾患が原因となっていることもあるため、専門的なカウンセリングを受けながら、焦らずに対応する必要があります。 性器の形態異常 尿道下裂や膣欠損など性器の形態異常が原因の場合は、泌尿器科や婦人科で治療することで性交が可能になるケースも少なくありません。また、性交痛がある場合は、性感染症や子宮内膜症などの婦人科疾患が原因となっている可能性があります。いずれも気づいた時点で早急に医師の診察を受けることが必要です。 ▼ 相談をお受けしています■不妊・不育にまつわる電話相談 ■不妊カウンセリング ■産婦人科医師による面接相談
2023.06.01 -
#不妊・不育の相談社会的な予防対策
ワークライフ・バランス(仕事と生活の調和)の推進 晩婚・晩産化という現象は、女性が働き続けることと、結婚して子どもを産み育てることとの両立が困難であるがゆえに、やむを得ず時期が遅れている傾向もあります。子どもを産みたくても産めない労働環境が原因で、結果的に加齢がもとでの不妊になってしまうような社会環境は改善していかなければなりません。ワークライフ・バランスとは、仕事、家庭生活、地域生活などさまざまな活動を、みずからの希望するバランスで展開できる状態のことです。子どもを持ちたい人が、機会を逃さず産めるようにするために、仕事と子育てとを両立できるような社会を構築することが求められています。しかしながら、子どもを産み育てやすい社会が、不妊に悩む人や子どもを持たない人の選択を阻むことがあってはなりません。これからの社会を考えていく上では、多様な個人を尊重する立場に立ち、「子どもの有無にかかわらず、あらゆる人が個々の生活を大切にしながら働くことのできる社会づくり」という視点が求められます。 「多様な生き方を認める」という視点にたった不妊予防教育 不妊予防教育を考える際にも、子どもを産み育てることが絶対唯一の価値観であるかのように受け取られることのないよう注意が必要です。なぜなら、不妊を予防することで不妊を減らすことはできても、不妊はなくなるものではないからです。不妊になることが悪いことであるかのようなメッセージは、不妊の悩みを深めることにつながります。不妊の予防活動は、不妊に悩む人たちが、より生きやすい社会にするための活動も含まれます。それは「多様な生き方を認める」ことであり「子どもを産む、産まない、産めないに関わらず、誰もが自分の人生を有意義なものにすることができる」という意識を、広く社会に伝えていくことであるといえます。
2023.06.01 -
#不妊・不育の相談二人目不妊について
二人目不妊の悩み 電話相談に寄せられる二人目不妊の悩みには、「計画通りに二人目ができない」「友人に二人目ができてあせる」「『二人目はまだ?』と聞かれたり、妊娠の話を聞くと気分が落ち込む」「二人目があきらめきれない」など、一人目不妊と同様の悩みがみられます。一方、二人目不妊ならではの悩みもあります。「一人目ができたのだから二人目も妊娠して当然」という認識があることから、妊娠しないことにジレンマを感じ、深く悩まれるともいわれます。「一人目ができたのに、不妊ということがあるのでしょうか」といった相談に見られるように、二人目不妊の存在自体があまり知られていないことも影響しているかもしれません。また、第1子を育てながらの治療となることから、治療にかけるエネルギーや経済的負担が限られるなど、子育てと治療の両立に悩まれることも、二人目不妊の悩みの特徴です。第1子を不妊治療で出産し、二人目を希望している場合には、「また不妊治療をしなければならないと思うとつらい」「一人目は不妊治療でできたが、今回は不妊治療でもうまくいかない」などの悩みが聞かれます。二人目を望む理由は、一人っ子はかわいそう、跡継ぎの男の子(女の子)が欲しい、家族4人という形を思い描いている、夫や家族が望んでいるなどさまざまです。一方、子どもが一人いることで、「子どもは一人がいるんだからいいじゃない」「贅沢な悩み」ととらえられるなど、悩みを理解されにくいという特徴もあります。しかし、子どもを授かりたいのに授かれない、希望がかなわないという意味では、一人目不妊と同様といえます。 二人目不妊の原因 原因として以下のようなことが考えられます。 年齢の変化妊娠経験や子どもの有無にかかわらず年齢が高くなると妊娠率は低下します。二人目を希望する場合、一人目の出産から年数が経過している場合や、第1子妊娠がすでに高齢である場合、第2子希望年齢が更に高くなっていることなどから、一般的な年齢の変化が関与していると考えられます。年齢とともに、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症、卵巣腫瘍などの婦人科疾患が増加することも関係します。また、妊娠したとしても、流産率が上昇していきます。子宮・卵管環境の変化第1子出産後の子宮内感染や、流産手術を受けることで、子宮や卵管の癒着を起こし、子宮因子や卵管因子の不妊となる場合があります。本来は不妊もともと妊娠しにくい原因があったにもかかわらず、第1子をたまたま妊娠・出産し、第2子はなかなか授からない場合も考えられます。パートナーの変更第1子の出産後、パートナーが変わることで不妊となる場合があります。一人目ができているので、原因は相手にあると思われがちですが、お互いの免疫学的相性が合わないことで起こる免疫因子の場合もあります。一人目出産後のセックスレス「妊娠を機に性生活が変わってしまった」「育児に追われているうちに、性生活がなくなってしまった」など、妊娠・出産を契機に性生活が変化し、妊娠のチャンスが減ってしまうことも多いようです。 二人目不妊の治療 二人目不妊は、身体的な面では、原発性不妊とほぼ同じ原因で起こっているといえます。そのため、治療は原発性不妊症と同様です。 ▼ 相談をお受けしています■不妊・不育にまつわる電話相談 【引用・参考文献】1)河崎環(2002):「ふたりめが出来ない。どうして?静かなる第二子不妊」.総合情報サイトAll About(アクセス:2013.12.21)2)産婦人科の基礎知識:http://www.san-kiso.com/futarime.html(アクセス:2013.12.21)
2023.06.01 -
#不妊・不育の相談男性のみなさまへ
不妊の原因は男女半々…二人で受診を 長年、不妊は女性側に原因があるとされ、女性の問題と考えられてきました。しかし、近年の研究では、不妊の原因は男女共に同じくらいの確率があることがわかってきています。そのため、不妊治療を受けるかどうか検討するにあたっては、二人で受診し、男性も検査を受けることが大変重要です。原因不明の場合も少なくありませんが、できるだけ男女同時に検査をスタートさせ、正確な原因究明を行うことが、治療の早道です。 不妊と向き合うには、二人の協力が欠かせません しかしながら、女性だけが検査を受け、治療を続ける習慣が今も残り、検査や治療を受ける男性は少ないのが現状です。男性にも不妊の原因があるということや男性側にどのような原因があるのかあまり知られていないため、性交ができていれば男性側に問題があるとは思いもよらないのかもしれません。また、「もしかしたら不妊かもしれない」と最初に考えるのはたいてい女性です。妊娠しない理由を知りたい女性が先に検査を受け、男性も検査を受ける必要を知ったとしても、パートナーの男性に「検査を受けて」とは切り出しにくく、女性側に原因が見つからない場合はなおさらです。こうして、男性が検査を受けるまでに時間を要することで不妊原因の特定が遅れ、不適切な治療が繰り返されている可能性が指摘されています。男性にとって婦人科を受診するのはかなり抵抗感があるものです。そのような場合は、不妊専門クリニックや、泌尿器科でも男性不妊を扱っているところがあるため、そうしたところを受診するのも一案です。女性は年齢を重ねると妊娠が難しくなっていくのが現実です。時間とともに生殖可能年齢を意識して焦りを感じる女性の思いとからだの仕組みを理解し、二人の問題として、二人が協力して不妊に向き合うことがとても大切です。■ 不妊の原因■ 妊娠を妨げる病気■ からだの基礎知識■ リンク集(不妊に関する情報、医療機関情報など) 二人で治療に向き合えない場合も… 一方が不妊を解決しようと一生懸命なのに、他方は楽観的あるいは消極的というカップルは少なくありません。特に、女性だけが受診している場合、治療の経過とともに二人の距離が離れてしまい、治療や子どもに対する気持ちの温度差によって感情をぶつけ合い、ともに傷ついてしまうこともあります。 治療が進むにつれて、女性は治療優先の生活になりがちです。パートナーの男性に関わってほしいと思いながらも、「仕事を休んでまで受診してもらうのは心苦しい」と遠慮したり、「どうせわかってくれない」と最初からあきらめていて、話し合えていないケースもあります。 男性は「そのうちできるよ」と楽観的なことがありますが、それがいたわりや励ましの気持ちからの言葉であっても、女性にはそうした言葉や態度が、「夫は不妊を自分のことと思っていない」と映ることがあります。女性まかせにしている男性の場合には、女性がどのような治療を受け、それによってどのような思いをしているのかを知らない場合がありますし、治療内容や治療の成功率についての情報を把握しておらず、治療すれば妊娠できるものと思っていることもあります。 男性の中には、「産むのは女性」「治療を受けているのは女性」という理由から、治療の最終的な選択権は女性にある、つまり「自分はあれこれ口を出さないほうがいいのでは」と考える人もいます。また、「プレッシャーはかけたくないので、口出ししない」という思いの人もいますし、そうした態度をむしろ「ありがたかった」と話す女性がいるのも事実です。 しかし、そうすることで、女性だけに治療の選択がゆだねられ、負担がのしかかることになり、治療の選択やステップアップについても全て自分で決めていかなくてはならなくなり、女性は自分にまかされているだけにさらにつらくなります。 不妊への向き合い方はカップルによってそれぞれですが、「二人のことなのだから一緒に向き合ってほしい」「主体者として取り組んでほしい」と考える女性は少なくありません。二人で不妊に向き合うためにも、男性が不妊や不妊治療の知識を持つことはとても重要です。具体的な治療内容や治療方法について知ることで、今後の治療について一緒に考え相談できるようになったり、治療が女性にとってどれだけ大変なのかを知ることで、パートナーの女性を思いやる言葉をかけることができるようになります。 ■ 不妊の基礎知識■ リンク集(不妊に関する情報、医療機関情報など) 男性の悩み 不妊が女性の問題と考えられてきたこと、原因が男女どちらにあるにしても治療の主体が女性であることなどから、不妊相談には女性からの相談が圧倒的多数を占めています。男性はあまり弱みを見せないものだ、多くを語るものではないなどの意識が、相談することをためらわせているのかもしれません。そのため、女性の悩みについてはある程度明らかになっていますが、男性の悩みについてはあまり明らかにされていないのが実情です。以下に、男性の悩みの一旦をご紹介します。 ● 精子に問題があると診断されショック精子に大きな問題があると診断された男性のほとんどが「驚いて頭が真っ白になった」といいます。「生殖不能者という烙印を押されたようでショックだった」「妻から離婚を言い渡されるかもしれない」など、不妊という事実に傷つきます。一般的に男性は、女性よりも検査を受けたがらない傾向にあります。精子の所見と性的能力はまったく関係がないにもかかわらず、原因が自分にあった場合、それを性的能力と結び付けがちだからです。検査を受けて男性不妊とわかった場合、自信を失って勃起障害(ED)になるケースも少なくありません。 ● 病院での採精による心理的苦痛人工授精や体外受精のために、病院で精液採取を繰り返し行うことで、不安や屈辱を感じ勃起障害(ED)になる場合もあります。 ● 性交時期や禁欲期間を決められる苦痛排卵日に合わせた性交タイミング指導が始まると、これまでのような自然な性交渉ができなくなるケースが多く報告されています。性交時期や禁欲期間が決められるなど二人の最もプラーベートな空間に第三者が侵入し、「排卵期だけ」「子づくりが目的」といった雰囲気となることで、排卵日になると性交がうまくできなくなる男性がしばしばいます。そのようなことが長い期間続くと、やがてセックスレスを招くこともあります。性交タイミング指導がプレッシャーになる場合は、子どもをつくることも性交の目的の1つですが、二人の楽しみであり、関係性をよりよくするためのものであることを、二人で話し合ってみるのもよいでしょう。性交に限らずふれあう時間を大切にし、「あなたを大切に思っている」というメッセージを、ときには言葉や態度で表現することも大切です。 ● 建設的な話し合いができなくなるカップルであっても、不妊というデリケートな問題であるだけに、お互いが率直に思いを伝えきれないこともあります。互いの気持ちを推しはかるがゆえに、何も話せなくなってしまうカップルもいます。こうして、不妊の話題を持ち出すたびに二人の雰囲気がギクシャクし、やがてこの話題そのものがタブーになり、本質的・建設的な話し合いができなくなってしまうこともあります。女性が不妊や不妊治療の悩みを一番わかってほしいのはパートナーです。パートナーだからこそ行き場のない怒りや悲しみなどの感情をぶつけてしまうこともありますが、「気持ちを聴き合う」ことも大切です。 ● 妻に申し訳ない、妻のからだが心配治療によって女性がどのような体験をしているのかを知る場合には、妻の身体的心理的負担を心配し、申し訳なさを感じている場合もあります。 ● 二人の楽しみを後回しにしてしまう生活の中のいろいろな楽しみや目標を「子どもができるまで」と後回しにし、生活のすべてを「治療優先」にしてしまうカップルもいます。女性が「治療一筋」になってしまい、男性がその気持ちについていけないこともあります。治療一筋の生活にせず、二人の共通の楽しみや時間を持つようにすると、不妊や不妊治療のつらさも、少し楽になります。 ● 社会の偏見・圧力・プレッシャー「子どものころからいつかは母親になると思っていた」と語る女性が多いように、「いつか父親になると思っていた」という男性も少なくありません。「男は家族をもって一人前」という社会通念も根強くあります。また、「ちゃんとやっているのか」「つくり方知らないんじゃないか」など、性的な詮索やからかい(セクシャル・ハラスメント)の対象となり、不快な思いをすることもしばしばあります。▼ 相談をお受けしています■不妊・不育にまつわる電話相談 ■不妊カウンセリング 【引用・参考文献】1)久保春海他(2006):不妊相談のためのマニュアル、不妊に対する理解と支援のための普及事業 事業委員会2)聖路加看護大学&フィンレージの会(2008):My Dear あなたの身近な人が不妊で悩んでいたら、聖路加看護大学21世紀COEプログラム Women-Centered Care 不妊ケアプロジェクト
2023.06.01 -
#不妊・不育の相談不妊で悩む人の周囲の方々へ
当センターの「不妊・不育にまつわる電話相談」では、当事者のご両親からの相談が増えています。その相談内容から、不妊当事者の抱える悩みも見えてきます。不妊に悩む当事者が、親に望むことをまとめてみました。ご両親以外の身近な方々にも、参考にしていただければと思います。 親の悩み 当センターの電話相談によせられるご両親の不安や悩みは、次のようなものです。 娘(息子)夫婦に子どもができません。私たちには何も言ってくれないし、こちらからも聞けません。このまま孫の顔も見られないのかと不安になります。 娘(息子)夫婦が、治療を受けているが妊娠しません。そんなことは、よくあることなのでしょうか。娘(息子)夫婦が特別なのでしょうか。 娘(息子)夫婦は、結婚して数年経つのに妊娠しません。跡継ぎなので、どうしても子どもを産んでほしいのです。治療を勧めたほうがいいでしょうか。どこかいい病院を紹介してください。どんな治療があるのか教えてください。 娘(息子)には持病があります。その病気が不妊の原因なのではないでしょうか。そんな体にした私が悪いのです。娘(息子)夫婦に申し訳なくて仕方がありません。 娘(息子)のパートナーの親族から「跡取りはまだか」と言われます。本当につらいし、すまないとも思います。 当事者の気持ち 親として「孫の顔が見たい」と思うのは自然なことです。「悩みがあるのならば話してくれればいいのに」と思う親心もあるでしょう。しかしその親心を伝えることが、当人たちにとっては大きな精神的ストレスになることが多いのです。なぜならば、多くの当事者は「親に孫の顔を見せてあげたい」と思っており、「孫の顔を見せてあげられない自分」を責めているからです。それでなくても社会には「女は子どもを産んで一人前、男は家庭をもって一人前」「親になるのは当然」というメッセージがあふれ、当事者たちを外から苦しめています。親からの「孫はまだか」の言葉は大きなプレッシャーとなり、怒りや悲しみ、自責感といった感情となって内側から当事者を苦しめることになるのです。また、不妊の悩みは当事者のみだけでなく、家族・親族を巻き込んだ問題になることも少なくありません。「子どもが欲しいとは思わないけれど、家のために子どもを産まなくてはいけないから治療を続けている」という人がいます。子どもが欲しくないのに、痛く苦しい治療を続けなければならないのは、当事者カップルにとって、とてもつらいことです。経済的負担も決して少なくありません。残念ながら、不妊治療をすれば必ず妊娠するわけではありません。どこかで区切りをつけなければならない場合もあります。治療を続けるのか、やめるのか、子どものいない人生を選択するのか、養子という選択をするのか、その選択も決して楽なものではありません。迷い悩み揺れ動き、やっとの思いで決断される方が多いのです。 あなたにできること 多くの不妊当事者が望んでいること、それは「そっと見守ってほしい」ということです。「娘(息子)に代わって、とにかく何でも情報を手に入れて伝えている」とおっしゃる親御さんも少なくありません。しかし本当に、娘(息子)さんはそれを望んでいるのでしょうか。親心からくる行動ですが、それゆえに当事者カップルにとって負担となっている場合が多いのです。「焦っている」「情報がほしい」というのは親であるあなたの気持ちであって、娘(息子)さんの希望することではないかもしれません。「子どもの悩み=親の悩みではない」ことを理解し、一線を引く努力も必要でしょう。ただ、本人から相談や報告などがあったときは、しっかりと聴いてあげてください。つらく苦しい思いのたけを打ち明ける相手として、あなたを選んでくれたのです。「よく話してくれたね、ありがとう」という思いを伝えてあげてください。また、親自身が「そんな体にした私が悪い」と自分を責める必要はないのです。言うまでもなく、不妊は親のせいでも当人のせいでもありません。自分を責める親を見るのも、当事者にとってはつらいことです。しかし「頭ではわかっているが、気持ちの整理ができない」ということは、よくあることです。親としても、周囲から「子どもはまだか」と言われるのはつらいことですし、娘(息子)を心配するのも仕方のないことです。そんな「誰にも相談できない」不安や悩みは、当センターの電話相談でお話しください。話をすることで気持ちが楽になります。自分の気持ちを楽にして、当事者に寄り添える理解者であっていただくことが大切です。 ■ 不妊・不育にまつわる電話相談 心にとめておきたい6つのポイント 当事者に「寄り添う」とはどういうことなのか。ポイントをまとめてみました。 ① 「ここにいます」というメッセージ 「本人が言わないのに、こちらから『悩みがあるでしょう』などと言い出すのは失礼ではないか」と多くの人が考えます。でも、あなただったらどうでしょう。人には言いづらい問題を抱えて悩んでいるとき、大事な友人などから「話したくなったら、どんなことでも聞くからね」と告げられたら……。おそらく、多くの人が「うれしい」と感じるのではないでしょうか。もしかしたら、具体的な相談はしないかもしれません。大切な相手だからこそ言いにくい・わずらわせたくない、そんな気持ちも人にはあります。でも、「ここにいます」と伝えてくれたあなたの気持ち、あなたのことは忘れません。周囲の人ができるのは、「聴く」、そして寄り添う心づもりがあることを伝えること。それが第一歩です。 ② 本人が口を開くのを待って 話すか話さないか、あるいは「いつ」「どこまで」話すかは、その人が決めること。不妊に限らず、悩みを抱えた人が周囲に期待する態度や言葉は、そのときどきで変化します。一人にしてほしいとき、誰かとあっても何も話したくないときもあります。ですから、気になるからといって、根掘り葉掘りたずねないでください。腫れ物にさわるような態度も避けましょう。悩むこと=よくないことと考えず、「これも本人にとって意味のある時間」と受けとめれば、待つこともできるでしょう。 ③ 相手の感情を否定しない 他者の苦しい思いを聴いていると、「悲観的すぎるのではないか」「もっと前向きに考えたほうがよいのではないか」といった気持ちが動き出すことがあります。でも、悩んでいる人がだれかにそれを話すのは、相手に「理解」や「共感」を期待しているときです。だから「考え過ぎ」「どうしてそんなふうに思うのか」「そんな小さなことで」などの言葉は禁物。悩んでいる本人の感じ方・感情を、否定したり批判しないでください。 ④ 悩みの背景にコメントしない 「それは、あなたと夫の関係に問題があるのではないか」などと悩みの背景を分析したり、「つまりこういうことなのでしょう」と解釈もしないでください。それは本人がすることです。悩みに対して、聞き手が性急にコメントしないように気をつけましょう。 ⑤「聴く」に徹する 最大のポイントは「聴く」に徹することです。何も言わずただただ聴いてください。具体的には、うなずきやあいづちです。「うん、うん」「そうだったの」「そんなふうに感じていたの」「うん、なるほどね」これで十分です。「あなたの気持ちをせいいっぱい理解したい」という姿勢がうなずきとあいづちから伝わっていく、これが大切です。「話すこと」は、苦しい気持ちを「放すこと」。たまっていたさまざまな感情を解き放し、さらに誰かに「うんうん」と聴いてもらうと、多くの人が「わかってもらえた」と感じます。この「共感」が、本人にとって何よりの励まし、エネルギーになります。 ⑥ アドバイス・励ましもいらない 「大丈夫」「10年たって子どもできた人もいるのだから」「よい病院を知っている」なども不要です。いまお話したように、悩んでいる人が期待するのは、多くの場合まず「共感」だからです。根拠のない励ましや安易なアドバイスは「気持ちをわかってもらえない」と本人をがっかりさせるだけでしょう。流産・死産をはじめ、大きな喪失を経験した人に「次がある」「いつまでも泣いていてはだめ」などと言うのも、励ましどころか、本人を傷つけてしまいます。 (出典:聖路加看護大学&フィンレージの会(2008):My Dear あなたの身近な人が不妊で悩んでいたら、聖路加看護大学21世紀COEプログラム Women-Centered Care 不妊ケアプロジェクト) 最後に 日本では10組に1組が不妊といわれます。決して「珍しいこと」ではありません。「まさか自分の娘(息子)が…」と思われるかもしれませんが、周囲の誰よりも、ご本人が一番悩んでおられるということを忘れないでください。子どものいる・いないにかかわらず、娘(息子)さんは、かけがえのない大切な人にかわりはないはずです。また不妊だけでなく、さまざまな理由で子どもをもてない方、生まない選択をする方もいます。子どもをもつか・もたないか、産むとしたらいつ産むのか、それはその当人たちが決めることです。「当人たちの決定を尊重し、応援する = 見守る」という姿勢が、親として、一番大切なことなのではないでしょうか。 【引用・参考文献】1)聖路加看護大学&フィンレージの会(2008):My Dear あなたの身近な人が不妊で悩んでいたら、 聖路加看護大学21世紀COEプログラム Women-Centered Care 不妊ケアプロジェクト
2023.06.01