column 不妊・不育の相談一覧
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#不妊・不育の相談不妊の検査
検査には、不妊の原因を探るための基本的な検査である「一般不妊検査」と、さらに詳しく調べる必要がある場合に行われる「特殊不妊検査」の2つに分けられます。女性の一般不妊検査は、月経周期に合わせて系統的に実施されるため、すべてを終了させるには最低でも2カ月くらいは必要です。場合によっては、全検査の終了を待たずに、不妊治療を開始することもあります。 女性の検査 【女性の一般不妊検査】 超音波検査超音波断層装置の経膣プロープを膣の中に入れたり、経腹プロープをお腹に当てたりして、骨盤内の様子をモニター画像に映し出す検査です。これにより、子宮や卵巣の状態を観察したり、卵胞の発育具合を見たりすることができます。また、子宮や卵巣の状態から、子宮筋腫、子宮腺筋症、卵巣腫瘍などの疾患についても診断できます。ホルモン検査黄体化ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)、卵胞ホルモン(エストロゲン)などの値を、採血により測定します。子宮卵管造影検査頸管から子宮腔へカテーテルを入れて造影剤を注入し、X線撮影を行う検査です。この検査により、子宮内腔の形態や卵管の通過性、卵管采周囲の癒着などがわかります。造影剤が卵管の途中で留まってしまう場合は、癒着などによる卵管の閉塞が考えられます。人によっては痛みを伴います。頚管粘液検査頸管粘液の量、透明性、粘調度、シダ状結晶(乾燥させたときに見えるシダの葉のような結晶)の形状、牽糸性(伸び具合)などを調べます。 【女性の特殊不妊検査】 腹腔鏡検査腹腔(骨盤腔)内、とくに卵管・卵巣周辺部の病変の有無や程度を正確に把握するために行われる検査です。検査時には臍やその周囲を1cmほど切開して内視鏡を挿入し、下腹部も1~2か所小さく切開して操作用鉗子を入れ、モニター画面によって腹腔内を観察します。簡単な癒着などはその場で手術することも可能です。全身麻酔を必要とし、通常、3日間程度は入院します。子宮鏡検査内視鏡を頸管から子宮腔内に挿入し、子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどをチェックします。子宮内腔の形態異常や癒着の様子などもわかり、軽い癒着をはがしたりポリープを切除したりすることもできます。最近は一般不妊検査に組み込まれることも増えてきています。卵管鏡検査卵管の閉鎖など、その通過性が思わしくない場合に、子宮卵管開口部から卵管内へと内視鏡を挿入して行う検査です。卵管内の状態を確認するほか、軽い癒着なら剥離することもできます。ただ、卵管の外側が周囲と癒着している場合は治療できないため、腹腔鏡を併用して検査を行うこともあります。染色体検査生殖能力と関係した染色体に異常があると、卵巣の発育が悪くなったり、流産の原因となったりします。このため、採血をして血液中のリンパ球を培養し、染色体の数や構造に異常がないかどうかを調べます。抗ミュラー管ホルモン(AMH)検査抗ミュラー管ホルモン(AMH)は、発育過程の卵胞から分泌されるホルモンで、卵巣予備能(卵巣年齢)を推定することができます。卵巣予備能がわかることで、今後の治療法やステップアップを選択する指標となるとされています。通常のホルモン検査と同様に血液検査で測定が可能ですが、まだ新しい検査法であり、保険適用はされていません。 男性の検査 【男性の一般不妊検査】 視触診精巣(睾丸)や精巣上体の大きさや硬さ、精索静脈瘤の有無などを診察します。超音波検査陰嚢部の超音波検査による、精巣容積、精巣の性状(精巣腫瘍の有無など)、精索静脈瘤の有無などを調べます。精液検査4~5日間の禁欲期間の後、採取した精液から、精液量、精子濃度、運動率、正常形態率(または奇形率)、生存率、白血球数などについて調べます。精液の状態は体調などにも左右されるため、結果が悪ければ再検査します。ホルモン検査男性ホルモン(テストステロン)や性腺刺激ホルモン(LH、FSH)、プロラクチンなどの血中値を測定します。 【男性の特殊不妊検査】 精巣生検精巣(睾丸)や精巣上体の大きさや硬さ、精索静脈瘤の有無などを診察します。精管精のう造影検査精管の閉塞の有無を調べる検査です。陰嚢を少し切開し、造影剤を注入してX線撮影します。染色体検査染色体の異常が、不妊の原因となる場合があります。「クラインフェルター症候群」も染色体異常の1つで、X染色体が過剰にあることが原因で精巣の発達や男性ホルモンの分泌が損なわれ、無精子症の原因ともなります。こうした染色体の異常をチェックするため、採血して血液中のリンパ球を培養し、染色体の数や構造を調べます。精子進入検査精子の受精能力をより正確に調べるための検査です。透明帯を取り除いたハムスターの卵とヒトの精子をシャーレの中で一緒にし(「媒精」という)、卵子の中に進入した精子の率を調べます。ハムスターテストともいわれます。 その他 フーナー(ヒューナー)テスト(性交後試験)早朝、性交した後に、頸管粘液中で精子が元気に運動していることを確認する検査です。男性不妊、頸管粘液分泌不全、免疫性不妊(抗精子抗体が陽性の場合)などの場合に不良となります。抗精子抗体検査フーナーテストにより抗精子抗体の存在が疑われる場合、採血によって調べます。
2023.06.02 -
#不妊・不育の相談不妊の治療
不妊治療には、大きく分けて、タイミング法、薬物療法、手術療法、人工授精などの「一般不妊治療」と、体外受精、顕微授精など卵子や受精卵(胚)を体外で取り扱う「生殖補助医療(ART)」の2種類があります。不妊治療は通常、自然に近い方法からより高次の治療法へと、段階的に進んで行きますが、不妊の原因によっては初めから高度な治療を行う場合があります。生殖補助医療(ART)は一般不妊治療と比べて経済的負担が大きく、また肉体的負担も少なくありません。 一般不妊治療 タイミング法不妊治療の最初のステップで行われる最も基本的な方法で、排卵日を診断して性交のタイミングを合わせて自然妊娠をめざします。性交のタイミングに問題があるカップルは意外と多く、この方法だけで妊娠するケースも少なくありません。不妊の原因が判明している場合は、薬物療法などによる治療と並行して、半年から1年間ぐらい行います。薬物療法(排卵誘発)不妊の原因によっては薬物療法が有効な場合があります。例えば、排卵障害の場合には、排卵誘発剤を投与し、卵巣を刺激して排卵をおこします。タイミング法と併用したり、人工授精の妊娠率を高めるためや、体外受精などの生殖補助医療の際にも多くの場合併用されます。手術療法不妊の原因によっては手術療法が選択されます。例えば、子宮筋腫や子宮奇形、子宮内膜症、卵管障害、精索静脈瘤、精路通過障害が不妊の原因と考えられる場合に手術が行われます。近年は、腹腔鏡や子宮鏡のもとで行う手術など、開腹手術に比べて身体への負担が軽くて済む手術が急速に普及しています。人工授精精子を人工的に子宮腔内に注入する方法です。夫の精子を妻の子宮に注入する「配偶者間人工授精(AIH)」と、夫以外の精子の提供を受けて注入する「非配偶者間人工授精(AID)」の2種類があります。 生殖補助医療(ART) 体外受精―胚移植(IVF-ET)卵子と精子を体外で受精させて培養し、できた胚(受精卵)を子宮に戻す方法です。通常は排卵誘発剤を使用します。採卵は、通常麻酔をかけ、超音波装置の経膣プロープに取り付けた針を膣から挿入して、卵胞から卵子を卵胞液ごと1個ずつ吸引します。1回の採卵の個数は個人差がありますが、1回の採卵で平均10個の卵子を採取します。精液は採取して、運動性のよい精子を回収し、培養液の中で受精させると、受精卵は分割を始めて胚になります。その中から質の良い物を選び出し、子宮の中に注入します(胚移植)。腹水や胸水をともなう「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」など排卵誘発剤の副作用や、採卵時の出血や麻酔のトラブルなどが起こる危険性があります。排卵誘発剤を使用することで多胎妊娠が起こる可能性も高まります。胚盤胞移植通常の体外受精-胚移植(IVF-ET)より受精卵を長く培養し、「胚盤胞」と呼ばれる着床直前の状態にまで育った胚を移植する方法で、より妊娠率が格段に高くなることがわかっています。受精卵の培養期間が長くなることから、より高度な技術と設備が必要になります。二段階胚移植体外受精で得られた胚を、2回に分けて移植する方法です。1回目は通常の体外受精-胚移植(IVF-ET)と同様に行い、2回目は「胚盤胞」を移植します。1回目の胚移植は、それ自身の着床をめざすのはもちろん、子宮内膜にシグナルを送って着床しやすい状態に変化させる目的があります。着床のチャンスを増やす分、多胎のリスクは増加します。顕微授精(卵細胞質内精子注入法:ICSI)体外受精では受精がおこらない場合に、顕微鏡を見ながら卵子に精子を人工的に注入(授精)して、受精させる方法をいいます。最先端の技術が必要であるため、実施できる施設は限られています。顕微授精の方法として、卵細胞質の中に精子を注入する「卵細胞質内精子注入法(ICSI)」が主流となっています。卵子への注入を人工的に行うため、運動能力に欠ける精子も利用できるのが体外受精とは異なる点です。顕微授精は、重症の男性不妊にも妊娠の可能性をもたらしましたが、無精子症や重度な乏精子症は染色体異常や遺伝子異常が原因である場合が少なくありません。顕微授精によって本来なら自然淘汰されるはずの精子が使われれば、かなりの確率で子どもに遺伝することも考えられます。体外受精一般のリスクとともに、顕微授精特有の問題点もよく理解したうえで選択する必要があります。受精卵・精子の凍結保存体外受精で得られた余剰の胚(受精卵)を凍結保存し、次周期での胚移植に利用することができます。こうした凍結胚を利用することで、排卵誘発剤の副作用や採卵時の身体的負担が軽減されるのは大きなメリットです。しかし、デリケートな細胞であるため、取り扱いには細心の注意が必要とされています。
2023.06.02 -
#不妊・不育の相談不育の基礎知識
不育症とは 妊娠はするけれども、流産、死産あるいは早期新生児死亡(生後1週間以内の赤ちゃんの死亡)を繰り返し、子どもを持てない場合、「不育症」とよびます。流産を3回以上繰り返す「習慣流産」とほぼ同義ですが、習慣流産には死産や早期新生児死亡は含みません。また、流産を2回以上繰り返す場合を「反復流産」といい、最近は反復流産も原因精査の対象と考えられるようになってきました。流産自体は珍しいことではなく、全妊娠の約15%の頻度で生じるといわれています。原因の多くは受精卵(胎児)の染色体異常であることから、一種の自然淘汰現象としてとらえられます。しかし、何度も続く場合は、妊娠を維持できない原因が他にあると考えられます。 不育症の頻度 流産は妊娠の約15%の頻度で生じるといわれていますが、その頻度は女性の加齢とともに増加します。流産の際の胎児の染色体異常の頻度は、約60%程度といわれていましたが、2008年~2010年に行った厚生労働科学研究班では、流産の約80%に胎児の染色体異常が認められました。これは、女性の妊娠年齢が高齢化したことによると考えられています。正確な不育症例の数はわかっていませんが、年間の妊娠届出数や流産の頻度、女性の年齢分布などから、毎年3.1万人の不育症患者が出現していると推定されています。これらの不育症は累積して実際はもっと多い可能性があり、不育症は決してめずらしいものではありません。 不育症のリスク因子 妊娠初期の流産の原因で最も頻度の高いものは胎児の染色体異常で、約80%に存在します。したがって3回流産したことのある人で、胎児染色体異常がたまたま3回繰り返す場合も、51%を占めるとされています。つまり、胎児染色体異常以外の要因は約半数となります。不育症のリスク因子には、夫婦の染色体異常に加えて、女性側の原因として、子宮形態異常、内分泌異常、凝固異常、母体の高齢年齢などがあります。主なものの内容は以下のとおりです。※リスク因子がある場合でも、100%流産するわけではないので、「原因」ではなく「リスク因子」と表現しています。 ■ 不育症のリスク因子について詳しくはコチラ>> 不育症の検査 一般に、1回の流産でリスク因子を検査する必要はありませんが、2回~3回以上流産を繰り返す場合は、両親のどちらかにリスク因子がある可能性があるので、検査の実施が検討されます。なお、1回の流産でも妊娠10週以降の流産の場合や死産、早期新生児死亡の場合には、母体の要因が大きくなるとされていますので、検査をする意義はあります。 ■ 不育症の検査について詳しくはコチラ>> 不育症の治療 不育症の治療法については、科学的根拠の信頼度の度合いに差がありますが、厚生労働科学研究班及び関係学会の指針を踏まえ、国内外の科学的根拠に基づいたリスク因子別の治療法が示されています。 不育症の治療について詳しくはコチラ>> さらに詳しい情報の入手先 ▼ 厚生労働省研究班のサイト「Fuiku-Labo(不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究)」では、不育症に関する基礎知識がさらに詳しく掲載されています。Fuiku-Labo ▼ このほか、リンク集にも詳しく掲載しております。リンク集 【引用・参考文献】*反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアル
2023.06.02 -
#不妊・不育の相談不育症のリスク因子
不育症のリスク因子 妊娠初期の流産の原因で最も頻度の高いものは胎児の染色体異常で、約80%に存在します。したがって3回流産したことのある人で、胎児染色体異常がたまたま3回繰り返す場合も、51%を占めるとされています。つまり、胎児染色体異常以外の要因は約半数となります。 不育症のリスク因子には、夫婦の染色体異常に加えて、女性側の原因として、子宮形態異常、内分泌異常、凝固異常、母体の高齢年齢などがあります。主なものの内容は以下のとおりです。※リスク因子がある場合でも、100%流産するわけではないので、「原因」ではなく「リスク因子」と表現しています。 夫婦染色体異常妊娠初期の流産の大部分(約80%)は胎児に偶発的に発生した染色体異常ですが、流産を繰り返す場合は、夫婦どちらかに均衡型転座などの染色体構造異常がある可能性が高くなります。その場合、夫婦とも全く健康ですが、卵や精子ができる際、染色体に過不足が生じることがあり、流産の原因となります。子宮形態異常子宮の形によっては、着床の障害となったり、胎児や胎盤を圧迫して、流・早産を繰り返すことがあると考えられています。●子宮形態異常の種類不育症の原因となる可能性が指摘されている子宮形態異常には、生まれつき子宮の形に異常がある先天的なものと、子宮筋腫(粘膜下筋腫)や子宮腔癒着症など後天的なものがあります。このうち、不育症との因果関係がはっきりしているのは先天的な子宮形態異常です。子宮形態異常にはいろいろなタイプがありますが、中隔子宮、双角子宮、弓状子宮などがあり、特に不育症と関連が深いのが中隔子宮といわれています。図:子宮形態異常※出典:反復・習慣流産(いわゆる「不育症」)の相談対応マニュアル内分泌異常甲状腺機能亢進・低下症、糖尿病などでは流産のリスクが高くなります。甲状腺自己抗体の影響などや、高血糖による胎児染色体異常の増加の関与が指摘されています。なお、これらの内分泌疾患では、早産等の産科合併症のリスクも高いため、妊娠前から妊娠中にかけて、良好な状態を維持することが重要です。凝固異常抗リン脂質抗体症候群、プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、第Ⅶ因子欠乏症などの一部では、血栓症などにより、流産・死産をくり返すことがあります。また流産・死産とならなくても、胎児の発育異常や胎盤の異常を来すことがあります。●抗リン脂質抗体症候群抗リン脂質抗体は、膠原病等の病気の際や、不育症例の一部に認められる抗体で、この抗体ができることにより、全身の血液が固まりやすくなり、動脈や静脈に血栓、塞栓症を引き起こすことがあります。特に血液の流れの遅い胎盤のまわりには血栓が生じやすく、胎盤梗塞により流産や死産が起こるとされています。最近の研究では抗リン脂質抗体は胎盤のまわりに炎症を引き起こし、その結果、流産になることも分かってきました。抗リン脂質抗体陽性の妊婦さんに血栓予防のためへパリンを使用することがありますが、へパリンには胎盤周辺の血栓をできにくくする作用と、炎症を抑える作用があることが分かってきています。●プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症これらは、血液を固める(凝固させる)活性化Va因子、活性化VⅢa因子を不活性化させる作用があり、血液凝固を防いでいます。プロテインSやプロテインCが減少すると血液凝固が起こりやすくなり、血栓、塞栓ができやすくなります。妊娠中は、プロテインS量が低下しやすいため、血栓症のリスクが高くなります。プロテインS欠乏症は白人では0.03~0.13%と低率ですが、日本人では1.6%と高率で、日本人に多いのが特徴です。厚生労働科学研究班では、不育症患者ではプロテインS欠乏症が7.4%と日本人の平均より高率でした。●第Ⅻ因子欠乏症第Ⅻ因子は、血液凝固因子の一つで、欠乏すると血栓や流産を引き起こしやすいといわれています。しかし、第Ⅻ因子を完全に欠損する場合でも、流産しないことがあり、第Ⅻ因子欠乏症と流産の関係については、不明な点も多いのが現状です。 不育症のリスク因子の頻度 子宮形態異常が7.8%、甲状腺の異常が6.8%、夫婦いずれかの染色体異常が4.6%、抗リン脂質抗体症候群が10.2%、凝固因子異常として第Ⅶ因子欠乏症が7.2%、プロテインS欠乏症が7.4%、プロテインC欠乏症が0.2%あります。 検査をしても明らかな異常がわからない偶発的流産・リスク因子不明が65.3%存在します。 また、全体の22.6%で、抗PE抗体陽性でした。現在のところ、抗PE抗体の病原性については、専門家の中でも意見が一致していないため「偶発的流産・リスク因子不明」に含めています。抗PE抗体陽性者を除いても約40%は偶発的流産・リスク因子不明です。
2023.06.02 -
#不妊・不育の相談不育症の検査
一般に、1回の流産でリスク因子を検査する必要はありませんが、2回~3回以上流産を繰り返す場合は、両親のどちらかにリスク因子がある可能性があるので、検査の実施が検討されます。なお、1回の流産でも妊娠10週以降の流産の場合や死産、早期新生児死亡の場合には、母体の要因が大きくなるとされていますので、検査をする意義はあります。 不育症一次スクリーニング 【子宮形態検査】子宮形態異常がある場合には、着床の障害になったり、胎児や胎盤を圧迫して流・早産を繰り返すことがあります。 子宮卵管造影検査(HSG)子宮の中に造影剤を入れて子宮の内腔の形をみます経膣超音波検査子宮の中に生理的食塩水を入れて見るSonohysterography(子宮腔内液体注入法)や二次元、三次元の超音波検査などがスクリーニングとして利用されています。中隔子宮と双角子宮の鑑別には、MRIや3次元超音波検査が必要となります。 【内分泌検査】甲状腺機能亢進・低下症、糖尿病などでは流産のリスクが高くなるため、これらの内分泌疾患の有無を調べるスクリーニング検査を行います。 甲状腺機能検査血液検査で甲状腺のホルモン検査(fT4、TSHなど)を行います糖尿病検査血液検査で糖尿病検査を行います 【夫婦染色体検査】胎児染色体異常の多くは偶発性ですが、夫婦の染色体異常が原因の場合があります。夫婦の染色体検査により、夫婦の染色体異常の有無がわかりますが、以下のような点に留意する必要があります。 夫婦染色体検査夫婦で染色体に構造的な異常がないかどうか血液検査で調べます(スクリーニングとしては保険適用外)。※夫婦染色体検査実施時の注意事項染色体や遺伝子などの遺伝情報を取り扱う際には、検査の実施前から十分な遺伝カウンセリングが必要です。不育症では、夫婦どちらの原因かを特定することは、必ずしも夫婦の利益につながりません。染色体異常があった場合に、どちらか特定せずに結果を伝達するという選択肢も含め、予め夫婦と担当医で確認をすることが望まれます。 【抗リン脂質抗体検査】抗リン脂質抗体症候群では、血栓症などにより、流産・死産を繰り返すことがあります。 抗リン脂質抗体検査血栓や流産のリスクとなる抗リン脂質抗体を調べます。抗CLβ2GPI複合体抗体抗CLIgG抗体抗CLIgM抗体(保険適用外)ループスアンチコアグラント(dRVVT法とaPPT法が保険収載されています)上記のいずれか一つ以上が陽性となった際は、12週間以上の間隔をあけて再検査することが必要です。再検査の結果、陽性が持続した場合、抗リン脂質抗体症候群と診断します。再検査の結果、陰性となった場合、偶発的抗リン脂質抗体陽性例と診断します。 不育症選択的検査 一次スクリーニングほど明確ではありませんが、不育症との関連性が示唆されている検査です。 抗PE抗体抗PEIgG抗体、抗PEIgM抗体(保険適用外)血栓性素因スクリーニング(凝固因子検査)第Ⅻ因子活性妊娠初期に流産を繰り返す方に、第Ⅻ因子欠乏症が認められる場合がありますプロテインS活性もしくは抗原妊娠初期流産、後期流産もしくは死産を繰り返す方に、プロテインS欠乏症が認められる場合がありますプロテインC活性もしくは抗原頻度は低いですが、不育症例の一部に低下する症例がありますAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)抗リン脂質抗体症候群や血栓性素因のある方では、APTTが延長する場合があります。
2023.06.02 -
#不妊・不育の相談不育症の治療
不育症の治療法については、科学的根拠の信頼度の度合いに差がありますが、厚生労働科学研究班及び関係学会の指針を踏まえ、国内外の科学的根拠に基づいたリスク因子別の治療法が示されています。 不育症のリスク毎の治療 子宮形態異常子宮形態異常に対する手術療法の有用性は、まだ明らかになっていません。中隔子宮では手術を行った方が経過観察より妊娠成功率が高いことが判明しましたが、双角子宮では手術を行っても経過観察でも妊娠成功率は同じでした。一方、中隔子宮、双角子宮でも手術を行わない経過観察で、診断後の最初の妊娠で59%が、最終的には78%が出産に至るという報告があります。弓状子宮では手術療法の有効性を示すデータは示されていません。いずれも症例数が少なかったため結論を出すに至っておらず、現時点では、双角子宮に対しての積極的な手術療法はメリットがない、中隔子宮についてはメリットがあるかもしれない、弓状子宮での手術療法についての有効性についても、明確なエビデンスはないので、積極的な手術療法は第一選択の治療法ではないとされています。子宮の形態異常があっても、それが直接健康に影響を及ぼすことはなく、必ずしも治療が必要というわけではありません。内分泌異常甲状腺機能亢進・低下症では、内科専門医の診療を受け、機能が正常になってから妊娠をすることが重要です。妊娠後も引き続き治療が必要です。糖尿病も、内科専門医の診断を受け、十分コントロールした上で、妊娠することが望まれます。妊娠前から妊娠経過中、産後にわたり、血糖の管理・治療が必要です。染色体異常夫婦のどちらかに均衡型転座などの染色体異常が発見された場合は、十分な遺伝カウンセリングを行うことが必要です。染色体異常の種類に応じ、染色体正常児を妊娠する確率や、着床前診断等のメリット、デメリット等を示した上で今後の治療方針を決める必要があります。均衡型転座というタイプでは最終的に60~80%が出産に至ることが最近分かってきました。なお現在のところ、着床前診断を行った方が自然妊娠より生児獲得率が高くなるというエビデンスはありません。抗リン脂質抗体症候群抗リン脂質抗体症候群では、特に妊娠中は血栓症のリスクが高まります。低用量アスピリンとへパリンの併用療法については、有効性を示す科学的根拠があります。へパリン投与時にはへパリン起因性血小板減少症(HIT)が、まれに起こることがあるので投与開始2週間前後で血小板数を確認する必要があります。妊娠中、十分なチェックを受ける必要があります。偶発的抗リン脂質症候群陽性例(再検して陰性化した場合)や抗PE抗体陽性例、抗PS抗体(抗フォスファチジルセリン抗体)陽性例については、治療の必要性・有効性ともに、専門家の間でも、また結論が出ていません。プロテインS欠乏症・プロテインC欠乏症プロテインS欠乏症で、妊娠10週までの繰り返す初期流産の既往がある場合、低用量アスピリン療法を行った方がよいというデータが出ています。また、妊娠10週以降の流・死産の既往がある場合、低用量アスピリン+へパリン療法が低用量アスピリン療法より有効であるとする報告があります。プロテインS欠乏症・プロテインC欠乏症に対しては、これらの状況を踏まえ、治療の適応を検討します。第Ⅻ因子欠乏症明確な治療方針は決まっていませんが、低用量アスピリン療法で良好な治療成績が得られているとのデータがあります。2回までの流産既往の場合流産リスクが無い場合も有る場合も、臨床心理士もしくは産婦人科医によるカウンセリングを行った方がストレスが改善し、妊娠成功率が高いことが研究班の成績で明らかとなっています。カウンセリングを受けることができなければ、十分な時間をとってリスク因子や今後の治療方針をていねいに説明してもらうとよいでしょう。ストレスが強く、うつの状態である場合ストレスが強い場合でも多くの場合、上記の方法(カウンセリングや時間をかけて説明)で改善するとの成績があります。不十分であれば精神神経科医を受診し、認知行動療法等の精神神経科的治療をうけると有効である場合があります。リスク因子が不明である場合多くの場合、胎児染色体異常を繰り返した偶発的な流産を繰り返した症例であるので、カウンセリングや十分な説明を受けるのみで、特別な治療を必要としません。しかし、一部の症例で難治性の原因不明流産が含まれています。これらの症例は今後の研究によりリスク因子や治療法が開発されていくものと思われます。
2023.06.02 -
#カラダと性の相談#不妊・不育の相談妊娠を妨げる病気
排卵障害をおこす疾患(内分泌異常) ゴナドトロピン放出ホルモン(性腺刺激ホルモン放出ホルモン:GnRH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)などのホルモンは密接に連携しながら排卵や卵巣からのホルモン分泌の調整を行いますが、その分泌に異常があると、排卵障害や着床障害につながります。なお、若い女性でも卵巣機能が低下して原始卵胞の数が少なくなり、このために排卵しない場合もあります。これを「早発閉経症」といいます。また、副腎皮質や甲状腺の機能の異常が原因で排卵障害がおこるケースもあります。 ■ 排卵障害をおこす疾患(内分泌異常)について詳しくはコチラ>> 卵管障害をおこす疾患 卵管障害には、卵管采に癒着があって卵子を取り込めない「ピックアップ障害」や、卵管内の通過性に問題がある「卵管通過障害」などがあります。卵管にトラブルが発生しやすいのは、女性の生殖器の中で最も粘膜が薄いため、虫垂炎や性感染症(STD)などにより炎症を起こしやすく、この後遺症として癒着や閉塞などを招きやすいためです。近年は、クラミジア感染による卵管障害が増加しています。また、子宮内膜症により卵管周囲癒着が起こることも少なくありません。 ■ 卵管障害をおこす疾患について詳しくはコチラ>> 着床障害をおこす疾患 子宮に異常があれば着床障害を引き起こし、不妊の原因になります。子宮因子となりうる主な疾患には、様々なものがあります。 ■ 着床障害をおこす疾患について詳しくはコチラ>> 子宮頸管に関する疾患 頸管、頸管粘液の状態による精子の通過がさまたげられるために妊娠が成立しない場合があります。 ■ 子宮頸管に関する疾患について詳しくはコチラ>> 造精機能障害をおこす疾患 精子をつくる働きの障害には以下のようなものがあります。しかし、原因不明の突発性造精機能障害が約60%を占めるといわれています。また、精巣炎も原因となる場合があります。 ■ 造精機能障害をおこす疾患について詳しくはコチラ>> 精路通過障害をおこす疾患 精子の輸送路(精路)に異常をきたすことで射精をさまたげ、不妊の原因となる場合があります。 ■ 精路通過障害をおこす疾患について詳しくはコチラ>> 性機能障害の主な疾患 精巣で精子が十分につくられており、精子の輸送路もふさがっていないが、勃起や射精などの性機能に問題があり、性交ができない場合を「性機能障害」といいます。 ■ 性機能障害の主な疾患について詳しくはコチラ>> 免疫因子 免疫反応が原因となり、受精や着床をさまたげることがあります。身体の防御機能が本来害ではないものに対して過剰に反応し、排出しようとする免疫機能の異常は、卵子や精子に対しても起こることがあります。なぜ自分自身が作り出す卵子や卵巣を異物と判断してしまうのか、精子や受精卵を異物として排出しようとしてしまうのかについては、はっきりとしたことはわかっていません。 ■ 免疫因子について詳しくはコチラ>> 【引用・参考文献】*久保春海他(2006):不妊相談のためのマニュアル.不妊に対する理解と支援のための普及事業 事業委員会*NPO法人日本不妊予防研究会編(2008):不妊予防のためのマニュアル.母子保健事業団
2023.06.02 -
#不妊・不育の相談排卵障害をおこす疾患(内分泌異常)
ゴナドトロピン放出ホルモン(性腺刺激ホルモンン放出ホルモン:GnRH)や卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)などのホルモンは密接に連携しながら排卵や卵巣からのホルモン分泌の調整を行いますが、その分泌に異常があると、排卵障害や着床障害につながります。なお、若い女性でも卵巣機能が低下して原始卵胞の数が少なくなり、このために排卵しない場合もあります。これを「早発閉経症」といいます。また、副腎皮質や甲状腺の機能の異常が原因で排卵障害がおこるケースもあります。 【排卵障害の代表的な疾患】 視床下部性排卵障害ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌の乱れや量の減少により卵胞の発育が悪くなり、月経はあるが排卵しない「無排卵周期症」や、月経そのものがない「無月経症」などを引き起こします。精神的なストレスや無理なダイエットが原因となるケースも多く見られます。高プロラクチン血症妊娠していないにもかかわらず、下垂体から分泌される乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)の量が増えてしまい、排卵が抑制されます。視床下部から分泌される神経伝達物質ドーパミンの不足や、胃潰瘍やうつ病の薬の服用、下垂体にできた腫瘍などが原因です。多嚢胞卵巣症候群(PCOS)卵胞が途中までしか発育しないことによって、卵巣表面の白膜上皮という部分が肥厚する病気です。卵胞の成熟も排卵もしにくくなります。この疾患は肥満傾向の人に多く見られ、また男性ホルモンの過剰分泌を伴って多毛になる人もいます。黄体機能不全卵胞の成熟が不十分な状態で排卵すると、排卵後にできる黄体の働きが悪くなり、黄体ホルモン(プロゲステロン)が十分分泌されなかったり、子宮内膜が十分厚くなることができません。このため、受精卵の着床障害が引き起こされます。こうした黄体機能不全は、卵胞の発育を促す卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌不足や、LHサージが不十分であることなどが原因とされます。基礎体温の低温相と高温相の差が小さかったり、高温相が不規則であったり、日数が短かったりするのが特徴です。 月経異常と不妊 ● 無月経主に「原発性無月経」と「続発性無月経」に分けられます。原発性無月経は、18歳になっても初経がおとずれない状態のことをいい、子宮・卵巣などの発育異常や、膣や処女膜の閉鎖、卵巣機能不全(視床下部性・下垂体性・卵巣性)、染色体異常などが原因として考えられます。続発性無月経は、初経以降、妊娠・授乳・閉経期を除き、3ヶ月以上月経が起こらない状態をいいます。こちらは精神的な負荷が原因となっている場合も多く、過度なダイエットやストレス過多、激しい運動などが挙げられます。放置しておくと、ホルモンバランスの崩れによる体調不良や不妊症につながります ● 無排卵月経月経周期は不順なことが多く、月経量が異常に多いあるいは少ないなどの月経量異常、月経期間が長いあるいは短いなどの月経持続期間の異常がみられます。基礎体温を測定し、高温相がなく一相性を示す場合に、無排卵月経が疑われます。これはホルモンの分泌異常が原因です。放置しておくと不妊症の原因にもなります。 内分泌疾患と不妊 排卵は、内分泌機能(ホルモンを血液の中に分泌する機能)と密接に関連しており、内分泌機能の異常が排卵障害の原因ともなります。内分泌疾患の好発年齢は女性の生殖年齢に一致していることから、月経異常を診断・治療していく中では、内分泌疾患の存在を念頭に置くことが大切です。不妊の原因となる代表的な内分泌疾患が「高プロラクチン血症」です。その他にも、「甲状腺機能異常症」「副腎性器症候群」「シーハン症候群」「糖尿病」などがあります。
2023.06.02 -
#不妊・不育の相談卵管障害をおこす疾患
卵管障害には、卵管采に癒着があって卵子を取り込めない「ピックアップ障害」や、卵管内の通過性に問題がある「卵管通過障害」などがあります。卵管にトラブルが発生しやすいのは、女性の生殖器の中で最も粘膜が薄いため、虫垂炎や性感染症(STD)などにより炎症を起こしやすく、この後遺症として癒着や閉塞などを招きやすいためです。近年は、クラミジア感染による卵管障害が増加しています。また、子宮内膜症により卵管周囲癒着が起こることも少なくありません。 クラミジア感染症クラミジア・トラコマチスという病原体が性交によって感染します。男性は尿道炎、女性は子宮頸管炎などを発症しますが、女性は感染しても約80%は自覚症状がないといわれ、発見が遅れがちです。クラミジア感染が進行すると、子宮から卵管、腹腔内へと炎症が広がり、卵管の閉塞や癒着などを引き起こします。子宮内膜症月経周期に合わせて厚くなり剥がれ落ちる子宮内膜によく似た細胞(子宮内膜様細胞)が、子宮内膜以外の場所で増殖する病気です。卵管の周囲や卵巣、骨盤などの腹腔内に加え、まれに肺などで見られることもあります。ホルモンの作用により、発生した場所で月経と同様に出血しますが、出口がなければ体外に流れ出ることができません。このため、たまった血液が塊となり、やがて周囲の臓器と癒着します。中でも、卵巣内に発生してチョコレートのように黒くどろどろした血液がたまっているものは「チョコレート嚢胞」と呼ばれます。なお、子宮体部筋層に発生する子宮内膜症は、その発生・発育機序や臨床症状が異なるために子宮腺筋症とよび、別に取り扱われます。子宮内膜症が発生するメカニズムはまだ解明されていませんが、卵管の通過性や胚の着床などが妨げられることがわかっており、不妊の大きな原因になります。 子宮内膜症の疫学 子宮内膜症は10代後半より発生し、年齢とともに急速に増加し、40代後半には減少していきます。子宮内膜症の誘因で促進因子でもあるエストロゲンの分泌が増加する20~30代の性成熟期に加速度的に増加し、40~44歳でピークとなります。また、生殖年齢にある女性の約10%に子宮内膜症が見られます。子宮内膜症は、近年その発生が急速に増加しています。その要因として、初経年齢の早期化、初産年齢の高齢化と小産化など、女性のライフスタイルの変化に伴ってエストロゲンにさらされる期間が長くなったことと、それにより骨盤内が月経血にさらされる期間が長くなったことが挙げられます。生殖医学の進歩により、子宮内膜症と不妊症との関連が次々と明らかになってきています。子宮内膜症の存在が不妊症を引き起こすことは明白で、「子宮内膜症合併不妊症」という診断名も定着してきました。
2023.06.02